我々は、TT2(B6XCBA F1由来、毛色はアグチ)細胞を用いて可変型遺伝子トラップベクターを導入し、トラップクローンの単離とキメラマウスの作製を行い、挿入変異マウスラインを樹立してきた。その過程で、ESの寄与率100%のキメラが多数得られるにもかかわらず、それらのキメラ全てで精子形成が見られないためにマウスラインを樹立できなかったものが1系統(ライン17-553)、精子は産生されるもののその運動性が異常なために受精能がなかったものが1系統(ライン17-576)得られた。トラップされた遺伝子の発現低下がその原因と考えられ、5'-RACEでトラップされた遺伝子を同定した。17-553では、ESTとしてしか報告の無い遺伝子がトラツプされており、現在、ベクターの挿入パターンや遺伝子の発現パターン等を解析中である。X-gal染色では、精単の精細管の一部分が染色されるという、精子形成過程のある時期に特異的な発現を示唆する結果が得られている。17-576は、β-pix(Pak-interactive exchange factor)をトラップしていることが判明した。特に、精巣特異的な働きが報告されている遺伝子ではないので、まず、この遺伝子を回復させると精子形成が回復するのかどうかを調べるため、可変型遺伝子トラップベクターの特性を生かし、挿入したトラップベクターのレポーター遺伝子であるβ-geoをβ-pixのcDNAに置換した。今後、その置換クローンからマウスを作製、精子形成能を調べる予定である。 また、「毛色では子孫に伝わるのが、トラップベクターが伝わらない」というキメラの解析も行った。そのようなキメラには2パターンあることがわかった。精子からのgenomic DNAにトラップベクターが検出されるものと、されないものである。後者の場合は、単純に、トラップベクターを持たないESのコンタミと考えられ、解析から除外した。前者については、現在解析中である。
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