恒温動物の精密な体温調節の起源を探る目的で、絶対音感と体温の関係について、以下の研究を行った。(1)精密周波数カウンタ付の可変周波数の正弦波発生器を内蔵する音感測定装置を2台製作した。調節は疎調と微調のレバー操作により手動で行い、調節終了後、周波数を表示するようにした。周波数分解能は0.1Hzとした。(2)絶対音感を持つ2名の被検者(24歳男性)を対象とした。(3)A音(440Hz)に合わせるように周波数を調節させた後、周波数を表示・記録させた。(4)直後に耳式体温計(テルモ・ミミッピ)で体温を測り記録させた。(5)2ヶ月間、毎日2回上記の測定を継続させた。(6)以上の結果、1名については分析可能な結果が得られ、音感と体温の相関を示唆する傾向が認められた。(7)傾向としては、体温の高いときは音感によって決定される周波数が高いことが認められたが、データが少ないので、さらに多くの被検者に対して長期間の観察が必要である。(8)この結果から、本装置が絶対音感と体温の関係を調べるために十分に機能することが確認され、また音感と体温の相関が示唆されたことから、この実験を進める意義があることが確認された。(9)次年度には、装置をさらに4台程度製作し、6〜12名の絶対音感保持者を被検者にし、詳細な実験を行う計画で、その準備を進めている。(10)もし絶対音感の周波数決定と体温の相関が証明されれば、周波数の決定精度を向上させるには体温調節を精密化する必要があることが示され、音感を利用した音声コミュニケーションの容量、たとえば鳴き声による親子の識別などの能力を増すように、精密な体温調節が進化したことを裏付ける知見が得られることになる。
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