我々は、神経細胞膜中ではガングリオシドの割合は十数パーセントにも及んでいることから、神経細胞の特異な形態形成(樹状突起、軸索にみられるようなチューブ状構造体)にガングリオシドが、情報伝達を介した生理学的機構以外に、物理化学的構造的な因子として深く関わっているのではないかという仮説を提案し、人工細胞モデル系での検討を開始した。種々の割合で混合したDOPC/ガングリオシドの薄膜を調製し、水和膨潤後、微分干渉顕微鏡、蛍光顕微鏡観察およびネガティブ染色による電子顕微鏡観察を行った。まず、リン脂質とガングリオシドの比率を数mol%から数十mol%まで変化させた時の会合体の構造変化を微分干渉顕微鏡法により観測した。例えばDOPCのみの系では、数十μmの巨大ベシクル(GUV)が観測されたが、GDlaが5mol%存在するとベシクルの他にチューブ状構造体が観察されはじめ、10-20mol%存在下で細いもので数百nm、太いもので数μmの直鎖上のチユーブ状構造体が観察された。チューブ状構造体の内部空洞の存在を水溶生蛍光プローブを用いて確認した。30mol%以上のガングリオシド濃度では、チューブ状構造体は消失して比較的小さなGUVが形成し、さらに高濃度では1μm以下の小さな会合体へと変化した。生体に存在する種々のガングリオシドで同様な実験を行ったところ、いずれのガングリオシドにおしいてもチユーブ構造誘起能、安定化能があることがわかった。一方、種々のリン脂質系では顕著なチューブ構造誘起はみられなかった。また、シアル酸残基を取り除いたアシアロガングリオシドでは、誘起能が顕著に減少することもわかった。GUVを細胞モデルとしてあらかじめ作成しておきそこに種々のガングリオシドを添加することで、リポソームがチユーブ構造で連結された興味あるネットワーク構造を形成することが明らかになった。
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