研究概要 |
胎児水頭症は脳脊髄液(Cerebrospinal fluid ; CSF)が脳室やその他の頭蓋内腔に過剰に貯留し,これらの腔が拡大した状態である.そのため,CSF循環路の閉塞部位を同定することが胎児水頭症診断には非常に重要である.しかしながら,出生後のヒトのCSF循環動態の評価はPC-MRA法により確立しているにも関わらず,胎児のCSF循環動態の評価に関する研究は統計的画像処理にとどまっているのが現状である,PC-MRAには心拍同期が必要であり,通常は心電が主に用いられているが,胎児の心電取得は難しい事に加え,超音波装置のMR対応性が報告されている\cite{Azuma}こともあり,超音波ドップラによる同期が有効であると考えられる.そこで本研究では,MR内で使用可能な超音波ドップラ装置を製作し,超音波ドップラ波形から心拍同期を行う新しい胎児PC-MRA(Phase Contrast Magnetic Resonance Angiography)法を開発し,そのPC-MRA法の評価・検証を行った. PC-MRA法とは,流れの位相ごとのMRA画像を撮影する手法であるが,撮影にあたって,一心拍毎に位相エンコードステップを変化させていき,時相毎の画像を取得していく.その,心拍同期を得る方法として通常は心電が用いられているのだが,本システムではMR対応の超音波ドップラにより,胎児の心拍波形から心拍同期信号を作り出す事で,PC-MRA法による撮影を行った.MR装置は日立メディコ社製MRH-500 0.5Tを用いた.MR対応超音波装置のMR対応性をS/N比により評価した.撮影はSE(Spin Echo)法とGFE(Gradient Fieid Echo)法でそれぞれTR/TE/FOV:300ms/30ms/250mm,解像度は$256\times256$で行った、ボランティア6名(成人男性22〜23歳)の超音波ドップラ波形を用いて,心拍同期の生成アルゴリズムの精度評価を行った. 最後に,脳脊髄液の流れを模擬したファントムを用いて,超音波ドップラによる心拍同期を用いたPC-MRA撮影を行った.撮影はGFBA法(Gradient Field Echo Angiography)法により,TR/TE/FOV:200ms/13ms/250mm,解像度は$128\times128$を用いた. ファントムのみを撮影した場合に対して,MR対応超音波装置を入れて撮影したところ,SE法の場合S/N比が3.8%減少し,GFE法の場合5.8%減少した,パラメータの調整を最適化した場合には,被験者6名に対して偏差1.6%以内の精度で心拍を検出できた. 胎児中脳水道の流れを模擬したファントム実験においては,流量が0.1mlの場合,同期なしによる撮影では検出できなかった流れ部分が検出出来,輝度値の増加量は71%であった. MR対応超音波ドップラ装置による胎児心拍同期を用いてPC-MRA法のシステム開発を行った.開発したMR対応超音波ドップラ装置を用いて撮影したMRI画像のS/N比はたかだか5.9\%程度しか減少しなかった.また,心拍ドップラ波形から同期信号を自動生成するアルゴリズムを開発し,偏差1.6%以内の精度で心拍を検出できた.胎児中脳水道の流れを模擬したファントム実験においては,流量が0.1mlの場合,同期なしによる撮影では検出できなかった流れ部分が検出出来,輝度値の増加量は71%であった.
|