研究概要 |
本研究プロジェクトは,心臓の特性が異なる生理的肥大心と病的肥大心の成立機序の違いを分子レベルで解明することを目指している。今年度は,心臓エネルギー代謝系に関与する因子について,病的肥大心とスポーツ心臓にで分子レベルの比較検討を行った。 高血圧などにより病的な心肥大が生じる。一方,慢性運動により心臓には生理的な肥大(スポーツ心臓)が生じる。今回,病的肥大心とスポーツ肥大心にて,エネルギー供給機構の主要酵素の遺伝子発現を検討した。病的肥大心モデルとして19週齢の自然発症高血圧ラット(SHR),スポーツ肥大心モデルとして15週間の水泳トレーニングした19週齢のWKYラット(水泳群),対照群として19週齢の安静飼育したWKYラットを用いた。SHRと水泳群の心臓は,共に左室肥大を生じた。CD36(長鎖脂肪酸の細胞内取り込みに関与)mRNA発現は,SHRにおいて水泳群および対照群より低かった。長鎖脂肪酸代謝の主要酵素であるcarnitine palmitoyl transferase(CPT)-1,acyl CoAsynthase, isocitrate dehydrogenase mRNAの発現は,SHRで水泳群および対照群より有意に亢進していた。CPT-2 mRNAの発現は,SHRおよび水泳群で対照群より有意に亢進していた。糖代謝の主要酵素のPhosphofructokinase mRNAおよび乳酸代謝の主要酵素のlactate dehydrogenase mRNAは,SHRで水泳群及び対照群より有意に高かった。高血圧による病的肥大心とスポーツ肥大心では,糖,乳酸,脂肪酸代謝経路の酵素遺伝子発現様式が異なることが示された。
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