研究概要 |
本研究プロジェクトは、心臓の特性が異なる生理的肥大心と病的肥大心の成立機序の違いを分子レベルで解明することを目指している。本年度は、運動トレーニングによる生理的肥大心の適応機序における関連遺伝子のプロファイリングを行うため、3,800遺伝子の発現を定量的に評価することができるマイクロアレイを用いて遺伝子発現の解析を行った。4週齢の雄SDラットにトレッドミルによる走トレーニング(30m/min,60分/日,5日/週)を8週間行い、心臓におけるmRNAの発現を解析・評価したところ、心肥大に関連する可能性のある75遺伝子が抽出された。さらに、マイクロアレイにより抽出されたこれら候補遺伝子のうち、glycogen synthase kinase(GSK)-3β、calcineurin-inhibitor(Cain)、そしてendothelin-1(ET-1)について詳細な検討を行った。GSK-3β、Cain、ET-1のmRNA発現を定量PCRで確認したところ、いずれのmRNA発現もトレーニングにより、有意に変化していた。また、これらのタンパク発現あるいはペプチド濃度も同様に変化していた。さらに、これらのタンパク発現あるいはペプチド濃度と心重量との間には、相関関係が認められた。一方、病的肥大心で発現が増加するbrain natriuretic peptide (BNP)やangiotensin-correcting enzyme(ACE)は、運動トレーニングにより変化しなかった。これらの結果より、運動トレーニングによる生理的肥大心の成立に関与する遺伝子は、病的肥大心の成立に関与する遺伝子とは一部異なる可能性が示唆された。
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