【目的】 統合失調症患者の体力低下は、社会復帰を妨げている一因と考えられている。この点で、体力が社会復帰を判断する指標になりうる可能性がある。本研究では、精神症状との関連性から、統合失調症患者の精神的健康関連体力(mental health-related physical fitness)の概念を提案し、実データからその可否を検討し、それを測定するための簡易体力テストを構成することを目的とした。 【対象と方法】 対象者は、精神科の病院に通院および入院し、研究への協力に同意した統合失調症患者男性45名、女性50名である。体力テスト項目は、健常者における健康関連体力の概念より、握力・背筋力(筋力/筋持久力)、長座体前屈(柔軟性)、体重当りの最大酸素摂取量(全身持久力)を採用し、さらに閉眼重心動揺外周面積(平衡性)、ステッピング・全身反応時間(敏捷性)を加えた7項目である。精神症状は、精神科医が18尺度からなる簡易精神症状評価尺度(BPRS)により7段階評価した。抗精神病薬1日内服量はクロルプロマジン換算により算出した。解析は、基準関連妥当性および構成概念妥当性の観点から進めた。すなわち、性別に年齢と抗精神病薬内服量の影響を除去した体力と精神症状の偏相関係数を算出し、偏正準相関分析、変形主成分分析を適用した。 【結果と考察】 偏正準相関分析の結果、精神症状を顕著に反映する正準変量が得られ、変形主成分分析により、分散が大きく類似した特性の主成分が得られた。以上の結果および実用性より、筋力と敏捷性を構成要素とする統合失調症患者の精神的健康関連体力を定義し、握力とステッピングの2項目からなる簡易体力テストを提案した。これは生活習慣病に焦点をあてた健常者の健康関連体力とは異なっている。今後、縦断的観察に基づく回復経過との関連性の点から有用性を検討する予定である。
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