飢餓時の生体応答の仕組みの解明をする上でまず最初に注目したのは下等な動物である線虫における解析である。最下等な動物といわれている線虫は全長1mmの動物であるが、ほぼ全ての遺伝子が解明されている。また、飢餓時には耐性幼虫という形態をとることが分かっており、本研究の初期の解析にふさわしいと考えた。 そこで線虫を用いたときにまず考えられるのが、RNAiという遺伝子を破壊する手法である。我々の研究しているストレスタンパク質Hsp90は線虫でRNAiを行うと致死になり、その変異体はRNAiを行うことで飢餓時に耐性幼虫にならないということが分かっている。つまりHsp90は飢餓時における耐性幼虫の形成に関与していることは判明したが、どのように関与しているかは不明である。 そこで、近年我々が見つけたHsp90関連タンパク質である、PA28に着目して研究を行った。PA28は細胞内のプロテアーゼであるプロテアソームの活性化因子として発見されたが、詳しい機能解明はなされていないものである。タンパク質はストレス時に変性するが、それを機能を持つ元のタンパク質にrefoldingするのにPA28とHsp90と共役して行うことを、我々は報告している。PA28のRNAiを行ってストレス時にそれが機能しなければ間接的にHsp90も十分な機能を発揮できないと類推できる。その結果の表現型の解析をすることでHsp90の生体内での働きを見られるのではないかと考えた。そこで、PA28のRNAiをまず野生株で行ったが、表現型は何の変化も見られなかった。次に、Hsp90の変異体であるdaf-21についてRNAiを行ったが、耐性幼虫の形成に改善が若干見られた。それについては追試を行っているところである。次に、FudR(2-deoxy-5-fluorouridine)を用いて、PA28が寿命にどのような影響を与えるか検討した。線虫で飢餓により寿命が伸びるという報告があるが、それについて検討する目的でPA28遺伝子を潰した線虫での寿命を測定した。FudRは核酸の合成阻害剤で、成長を停止させるが、寿命には影響を与えない化合物である。これによってPA28のRNAiを行っていない線虫と比べて寿命に影響を与えることが分かれば現在寿命に関して知られているシグナル伝達系のいずれかに属するか絞り込んで検討できる。その結果、ノーマルの線虫に比べて寿命が短い傾向が見られた。今後はその再現性を見ると共に、寿命に関与する情報伝達系のどの経路に関与しているかについて検討をしたいと考えている。
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