研究概要 |
誘電分光測定では,測定対象が水系の場合には誘電率・導電率や誘電緩和時間が大きな変化を示すため,多様な電極や測定・解析手法を適切に選択する必要がある。GHz領域を含む周波数帯でこれらの測定を遂行するため,別途新たに導入した精密インピーダンスアナライザーを含む広帯域誘電分光のセットアップを行った。これらの電極の設計・製作や,測定・解析アルゴリズム・プログラムの開発に加え,水系の誘電的性質が温度に強く依存することから,恒温槽,温度コントローラ,クオーツ温度計等を測定システムに組み込み,より詳細な温度調整を可能にし,さらに凍結用ジャケット,クライオスタットの製作を行って低温域測定で用いた。セットアップの妥当性を確認するための標準データとして,まず従来から誘電分光データを集積しているpoly(vihylpyrrolidone)の水溶液について,様々な濃度で緩和パラメータを決定し,さらに広範囲な標準データの集積ができた。 食品系で重要な高分子ゲルとしてPAAm/水系の体積相転移に伴う拘束水のダイナミクスを観測した。従来のデータに加えて,加水分解処理によってアクリル酸側鎖を導入したゲルについてもさらに正確な体積測定を行った誘電分光測定を行い,収縮ゲル内拘束系でのデータを得た。また,水をジオキサンに置き換えた測定によって,収縮相での溶媒分子ダイナミクスに水系と異なる挙動を見出した。ゲル系の物性における疎水/親水性相互作用の影響を検討する上で興味深く,今後の測定が期待される。 さらにいくつかの多糖類高分子水溶液について,放射線架橋によってゲル分率を変化させた場合の水,分子鎖ダイナミクスを検討した。現在放射線によるラジカル化からのゲル構築を整理し,これらのダイナミクスについての知見をまとめている。また,これらを凍結温度以下まで冷却して不凍水のダイナミクスを観測し,緩和強度から不凍水量,緩和時間とその分布から拘束の様子を調べ,誘電分光で得られたガラス転移の挙動を熱分析と比較することが可能になってきた。
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