本研究では、自然・科学教育の重要性が叫ばれている今日において、動物園はその絶好の場所と捉え、動物園における人と動物の相互作用についての基礎研究を行い、「動物園行動学」という新しい研究分野を確立することを意図した。このために、来園者の行動、動物の行動、動物と来園者の相互作用を記録した。来園者の展示動物前での滞在時間が最も長いゾウで、128秒、短い小型霊長類では30秒以下となり、一般に思われているほど長い時間を展示動物舎前で滞在していないことがわかった。また、動物が動いていること、その動物を話題にした会話などの来園者間のコミュニケーションが活発になると滞在時間が延びることも明らかになった。動物園への来園直前と来園直後の質問紙調査で得られた人気動物に違いがあり、退園直後の調査で人気のあった動物は、来園者の展示動物前での滞在時問が長い動物であった。つまり、展示動物舎前で長い時間を過ごしてじっくり見ていることが、当該動物への関心を高めることになることが明らかとなった。 自然の中で暮らすニホンザルを近くで見て楽しむことが可能な野猿公園での来園者の意識に関する調査も並行して進めた。来園者の関心は、おとなよりも子ザルに、動きの乏しい休息時のサルよりも、毛づくろいなどをしてかかわっているサルや遊んでいる子ザルに対して高かった。また、「ボスザルはどこですか?」という質問が多いことからも、ニホンザル社会における「ボス」の存在を確認したいという来園者心情が推測された。
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