研究概要 |
本研究は,学習者が計測器を携行する生体情報測定(ウェアラブル計測)を利用して,教育環境における学習者の情意領域の変化を追跡しようとする。実験室場面を離れた生体情報計測は,意味あるデータを手にする前に,解決すべき方法論的な課題がある。平成15年度は主に方法論の確立のため,以下の作業を行なった。 (1)生体情報から情意領域変化を抽出方法の検討 これまでの我々の研究グループでは,自由行動場面における単一生体情報の連続測定データから,情動変化の追跡を試みてきた(研究発表1)。しかし,感情変化の質がポジティブなものか,あるいはネガティブなものかを識別することは困難であった。そこで,心臓血管系,呼吸系,精神性発汗等の複数の生体情報から,学習者が体験している感情がポジティブなものか,あるいはネガティブなものかを識別するための方法を検討した。感情を喚起するための複数の映像を用意し,それを視聴しているときの主観的な感情評定と生体情報をデータ解析ソフトウェアであるMATLABとSASを用いて分析した。その結果,単独の生体情報では困難であった感情の質の分析が,複数の生体情報を組み合わせることで可能になることを明らかにした。以上の成果については昨年度の日本心理学会で発表し(研究発表3),本年度日本生理心理学会でも発表を予定している(研究発表4)。 (2)生体情報の信頼性に関する検討 個々の生体情報の信頼性を高めるための技術的な検討を行なった。自由行動時の生体情報記録にはノイズが多く混入し,不規則な変動を伴う。日常生活で得られる呼吸・心臓血管系データに関して,もっとも適切なノイズ除去方法とデータ処理方法を検討した。圧,加速度センサーにより身体運動の有無と強度を測定し,そのデータを用いてノイズを除去するソフトウェアを作成した。マニュアルによる処理結果の一部はすでに発表し(研究発表2),現在自動的処理に取り組んでいる。
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