今年度の研究を通して以下の点が明らかになった。 クロスバー交換機の動作機構の解明を通して、交換機の基本動作が空間分割および時間分割にあることを確認するとともに、個々の呼の制御機構がトラフィック理論に基づいて設計されることを確認した。クロスバー交換機を対象として構築された交換機間インターフェースに基づいてアナログ式電子交換機が導入されたことと、日本のデジタル式電子交換機DIPS-1の初期の配備が、主として市外交換におけるトラフィックの計算に投入されたことと対比すると、クロスバーに代表される機械式交換機からアナログ式電子交換機への転換よりもアナログ式電子交換機からデジタル式電子交換機への転換の方が、技術的には大きな飛躍であったことが明らかになった。デジタル式電子交換機相互間における経路情報および輻輳情報の交換が、電話通信網設備の効率的利用にあったことから、その基礎をなすトラフィック理論の具体的課題の変遷の解明が重要な論点となることを明らかにした。これを具体的な電話交換網の機能として述べると、ダイヤル式市外自動交換を進める際の交換機の制御能力を可変的に設定することが求められたものとみることができる。 また、今回の研究の過程を通して、昨今のコンピュータ通信システムの世界的な普及により、従来の交換工学を一つの中心においた通信工学の大系が大きく変貌し、パケット交換方式を中心とする体系にきゅうそくに変わりあることが確認できた。このため、いまだ十分に整理されていない通信技術史の手法を早急に確立する必要のあることが確認された。 次年度は研究課題のもう一つの柱であるコンピュータ技術導入の主要課題がトラフィック問題の計算であったことから、計算能力、即時処理の問題としてコンピュータに要求されたものと、実現方法について解明することを課題としたい。
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