研究概要 |
石器・礎石・石垣などの考古試料が定置された年代を,地球磁場中に置かれた時間に応じて獲得される粘性残留磁化を使って直接求める新しい方法に取り組んでいる.加熱によって粘性残留磁化を消すために必要な温度(消磁温度)と磁場中に置かれていた時間との関係から,考古試料がどれだけの期間動かされずに置かれていたかを求めることができる.第一段階として,すでに年代が須恵器の編年から確立されている考古遺跡から須恵器の破片を試料として採取し,粘性残留磁化によって得られる年代との比較を行った.既知の年代と対応する粘性残留磁化による年代を得るにはどのような消磁方法が有効であるか,また定置年代測定に適した試料の選別を行うにはどのような磁気的な性質に着目して実験を行った.粘性残留磁化の消磁温度を求めるために,実験室で試料を無磁場空間において10℃ステップで加熱・冷却して熱消磁を行った.その結果,須恵器が冷却されたときに獲得した安定な磁化に加えて,100-150℃で消磁される磁化成分と100℃以下で消磁される磁化成分を見いだした.前者は須恵器の冷却されたあと土中に定置されていた間に獲得された粘性残留磁化,後者は試料採取後実験室で保管している間に獲得された粘性残留磁化である.前者の消磁温度から求められた定置年代は編年による年代と一致し,後者から得られる年代は保管されていた期間に等しい.熱消磁前に交流消磁や低温消磁を行う方法も試みたが,熱消磁の結果に大きな影響を及ぼすことはなかった.一方,試料中に含まれる磁性鉱物に熱消磁の結果は大きく依存する.低温磁化測定によって,形状異方性に支配されたマグネタイトが磁化を担う場合は磁化成分を明瞭に識別することができるが,チタノマグネタイトが磁化を担う場合には磁化成分の識別が難しいことがわかった.
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