研究概要 |
サケの死骸が渓流生態系に及ぼす影響を,北海道東部のサケが遡上河川と隣接した非遡上河川において木本と草本,水生動物等のサンプリングを行い,窒素安定同位体比を測定して遡上効果の検討を行った.サケ遡上河川では樹木菜はδ^<15>Nが-0.3〜3‰,非遡上河川においても-0.5〜2‰の値を示しサイト間での有意な差はなかった.大型草本のタキタブキは,遡上河川では著しく高い値(6‰)が計測され,非遡上河川では3‰と有意な違いが認められた.一方,水生昆虫の中で雑食とされるマダラカゲロウ科の幼虫は,遡上河川で7.6‰,非遡上河川では5‰,また破砕食者であるガガンボ科幼虫も遡上河川で4‰,非遡上河川で1.7‰といずれもサケ遡上河川で高い結果となった. 次に自然河川脇に長さ10mの人工水路を設置し,サケの死骸と水生動物導入による3反復3処理を設定し,6週間にわたって水質,一次生産,落葉分解そして水生動物群集を測定した.3処理の内訳は,1)サケと水生動物を導入,2)水生動物のみを導入,さらに3)サケ・水生動物を全く導入しないのである.この結果NH_4^+と藻類のクロロフィル量は,サケと水生動物導入区1)が,水生動物のみ2),および何も入れない処理3)よりも高かった.水路内に導入したイタヤカエデ葉は,サケ・水生動物導入区1)が他の2処理に比べて有意に減少率が大きかった.またイタヤカエデ葉のC-N比は,サケ・水生動物導入区の他の2処理に比べて低かった.水路内に繁茂した藻類と優占種であるトビケラGoerodes satoiの窒素安定同位体比を測定したところ,サケ・水生動物導入区で他の2処理に比べて約3‰高く,サケ由来の窒素を約20%体内に取り入れていることが判定された.これらの結果から,サケの死骸は水質や一次生産だけでなく,水生昆虫にも間接的に影響している可能性が示された.
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