本課題ではまず、培養したユーグレナを種々の変異原で処理し、細胞中に異なる種類のDNA損傷を生じさせる。次いでDNA修復のために一定時間培養する。最後に、葉緑体・ミトコンドリア・核にそれぞれ特異的な遺伝子を標的に定量的PCRを実施し、目的遺伝子がどれだけ増幅されたかで損傷がどの程度治されたかを、オルガネラごとに推定する。 前年度までにユーグレナ(Euglena gracilis)の培養環境を整備し培養条件を確立した。また当初の予定では、RIを用いた定量的PCRを実施する予定であったが、簡便で電気泳動不要、更によりよい再現性が得られるリアルタイムPCR法を採用することにした。本年度は、リアルタイムPCRシステム(Cepheid社製Smartcycler II System)を用いてCyberGreen法により各オルガネラに特異的な遺伝子を定量した。 まず、α-tublin1(核遺伝子)、rbcL(葉緑体遺伝子)、COXI(ミトコンドリア遺伝子)に特異的なそれぞれ約80bps領域を増幅するリアルタイムPCR用プライマーを設計した。ユーグレナから精製した全DNAを鋳型にリアルタイムPCRを行い、各遺伝子それぞれ単一のPCR産物が得られることを確認した。また鋳型を段階希釈し、各遺伝子についての検量線を作成した。次いで、紫外線照射したDNAを鋳型にリアルタイムPCRを実施した。しかしながらUV線量依存的なPCRシグナルの減少はみられず、本条件ではDNA修復の度合いを定量できるとは言えなかった。そこでPCR増幅する領域を80bpsから300bpsに拡大し、同様の実験を行ったところ、UV線量依存的なPCRシグナルの減少が見られた。このため本条件でDNA修復能の定量を実施中である。
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