本研究では、走査型トンネル顕微鏡(STM)や非接触原子間力顕微鏡(nc-AFM)などの原子分解能を有するSPM法を利用して、ステップの並びを制御したSi清浄表面基板にDNA分子を配列させ、固体基板表面のステップに特異吸着する分子を解析し、ボトムアップ型ナノテクノロジーの基盤造りに貢献することを目的とした.試料調製として、液滴を清浄な基板に真空中で噴霧する手法と、STMやnc-AFMの探針に液滴を噴霧して、対向させた試料に電圧印加により転写する手法を提案した. ステップ配向を制御したSi基板を調製するために、微傾斜面のSiウェハーを用意して超高真空中で1200℃に通電加熱し清浄表面を得た.この表面はステップ・バンチング(ステップが多数重なった)構造をもつ.このとき利用した超高真空装置に直結した高真空槽(10^<-8>Torr台)に、DNA分子を含んだ水滴を真空中で基板に噴霧できる機構を組み込んだ.本装置を利用して、Si(111)面に「金ナノ粒子付着ポリヌクレオチドDNA分子」を噴霧した. この面への散布状態を確認するために、超高分解能電界放射走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて観察した.本FE-SEMの性能は、基板のステップを観察することができ、また金粒子の場合、電子加速電圧30kVで最高0.5nmの分解能を有する.その結果、Si基板に担持されたDNA分子と思われるSEM像を多数得ることができた.この観察において、試料は金属コート・金属染色すること無しで、安定に像を得ることができた.この知見は、生体分子の構造を広範囲から微小範囲にわたって迅速に観察できる新手法になると考えられる.現在、本手法を利用して、何種類かのDNA分子に対して同様な実験を重ね、良好な結果を得つつある.本手法と併せ、STM、nc-AFMでの観察・解析を引き続き行う予定である.
|