DLC膜にフェムト秒レーザーの特性(フルーエンス(エネルギー密度)、波長(赤外800nm〜紫外267nm)、偏光(円偏光と直線偏光))を変化させて200μm程度のスポットで照射し、膜表面に形成される周期的微細構造(ナノ構造)のサイズや形状を制御するための条件を明らかにした。即ち、ナノ構造のサイズを波長とフルーエンスにより制御し、形状を偏光で制御する技術を開発した。また、照射雰囲気の効果を調べるために、真空中と酸素中でレーザー照射を実施したが、真空中ではアブレーション閾値が低下することや加工速度のフルーエンス依存性が低下することが判明した。酸素中(1気圧)では、大気中の結果に類似しているが、高フルーエンスでは照射痕の形状が異なり、酸素の影響があることが推測された。また、ラマン分光による分析では、大気中の照射結果と傾向が類似しており、低フルーエンスでGC(ガラス状炭素)に改質されることが判明した。 次にこのナノ構造をより広い平面状に形成する技術の開発に着手した。その結果、アブレーション閾値近傍の低フルーエンスの照射条件で、試料ステージを精密駆動させ駆動スピードを最適化することにより、約15mm×15mm程度の平面にナノ構造をほぼ一様に形成することが可能になった。また、ラマン分光により、照射面の全画がGC(ガラス状炭素)に改質されていることも判明した。GCの薄膜化技術は今までに報告例がなく、DLCと類似な性質を有し、DLCにない耐熱性や導電性も併せ持つ新規の硬質薄膜として、幅広い応用が期待される。 さらに、ナノ構造が平面状に形成されたDLC膜表面のトライボロジー特性を、ボール・オン・ディスク型摩擦摩耗試験により評価した。その結果、未照射面と比較して、超硬ボールに対してはそれほど変化しないが、鉄系(軸受鋼)のボールに対しては摩擦特性が向上することが判明した。
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