本研究は生体内に存在する特定の分子の絶対数と密度を電子顕微鏡タグを用いることによって、直接計測しようというものである。現在、生体内分子を直接観察する方法として、ある種のクラゲの発光蛋白質として見出されたGreen Fluorescence Protein (GFP)を遺伝子工学的にタグとして付加する方法が広く利用されている。しかし、この方法は蛍光光学顕微鏡用であり、ナノスケールで特定分子の局在を観察したり、電子顕微鏡的微細構造のなかで分子の絶対数を計測することはできない。本研究の目標は生体内で一分子を観察できるようにすることである。 免疫電顕法は組織中の抗原抗体反応の効率が100%ではなくかつ一定でないため、存在する分子数を推定することができない。もしすべての分子について電顕タグで一対一対応の標識をすることができれば、受容体やイオンチャネル分子の絶対数や密度を測定することが可能となり、これらの分子機能についての情報は飛躍的に増大する。このような状況の下、電顕タグとなる材料をスクリーニングを始めた。まずは佃助教授(研究分担者)の開発したナノ粒子調整法を応用することを試みた。アルカンチオールの代わりに遺伝子でコードできるアミノ酸であるシステインのチオールを用い、ナノ粒子を生体組織中で形成させることを金属蛋白質であるメタルチオネインと金イオンを用いて実験を行ったところ、大きさはさまざまであるが8nm以下の金クラスターを形成させることができた。本年度は、まず金クラスタータグを開発することを目標としたが、メタルチオネインと融合蛋白質を作製したところ、細胞や生体内で特異的な金クラスターを形成することにいまだ成功していない。今後はさらに条件検討を続行するとともに、別のタグとしてstreptagなども視野に入れてスクリーニングを進める。この方法の有用性は大きな潜在的可能性を秘めており、生体機能のより精緻な理解に結びつくと考えている。
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