研究概要 |
オーストラリアに生息する有袋類の一種であるtammar wallabyのゲノムインプリンティング遺伝子の探索を行った。共同研究者のメルボルン大学・M.Renfree教授から供与を受けたtammar wallabyの胎児サンプルを用いて、cDNAライブラリーを作製した。ヒトおよびマウスでインプリンティングのかかっている遺伝子の相同遺伝子をスクリーニングするために、遺伝子内で塩基配列の保存性の高い部分にPCR用のプライマーを設計し、wallabyのcDNA全体を増幅した。これから得られたDNA断片を用いて、完全長のcDNAを分離した。この方法等により、PEG1/MEST,p57KIP2,IGF2,IGF2Rの4つの相同遺伝子が得られ、wallaby個体間のDNA多型を利用して、PEG1/MEST,p57KIP2,IGF2が片親性発現を示すことを確認した。これらの3つの遺伝子はヒト、マウスではPEG1/MEST,IGF2は父親由来のアリルから発現する遺伝子であり、p57KIP2は母親由来のアリルから発現する遺伝子であるが、wallabyでも同じくPEG1/MEST,IGF2は父親由来、p57KIP2は母親由来の発現特異性を示したことから、有袋類とヒトやマウスのような真獣類のゲノムインプリンティングの起源が同じである可能性が示された。 しかし、wallabyの集団内には個体によってインプリンティング遺伝子の片親性発現パターンが乱れているものが存在していること、真獣類のPEG1/MEST遺伝子の片親性発現の調節に重要な役割を果たしているDifferentially methylated regionが有袋類には存在していないことなど、真獣類と有袋類のインプリンティングに大きな違いがあることも明らかになって来ている。このことは、この2つの哺乳類のグループ内でのゲノムインプリンティングの制御方式において、その分子機構に違いが存在することを示唆している。
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