研究概要 |
目的:申請者らは最近、水晶体培養細胞NN1003Aの産生するタンパク質中にD-β-アスパラギン酸(D-β-Asp)が存在することを発見した。これまでに種々の代謝の緩慢な老化組織(水晶体、脳、皮膚、歯など)ではD-β-Aspが見いだされているが、分裂の盛んに行われている培養細胞中でのD-β-Aspを含むタンパク質の報告は全くない。本研究ではこれらのタンパク質を同定することを目的とした。 方法と結果:水晶体培養細胞NN1003Aを大量に培養し、タンパク質画分を抽出し、2次元電気泳動にかけ、以前我々の調製したD-β-Asp含有ペプチド特異抗体を用いてwestern blottingを行った。その結果、水晶体培養細胞NN1003A中に複数のD-β-Asp含有タンパク質が発現していることが明らかとなった。これらのタンパク質をゲル内酵素処理し、質量分析、タンパク質データベース解析によって同定した。その結果、Calponin H2,ラミン、エノラーゼ、αB-クリスタリンなど10種類のD-β-Asp含有タンパク質が同定された。本研究により微量のD-β-Asp含有タンパク質を同定する手法が確立した。従来の研究で、我々はタンパク質中でのD-β-Asp生成は酵素に依存せず、Asp残基が5員環イミドを形成し、これを介してラセミ化、異性化をするというメカニズムを明らかにした。本反応はAsp残基がイミド形成をしやすいか、しにくいかが、driving forceとなっている。Asp残基のイミド形成はAspの隣接残基がアラニン、グリシン、セリンのような立体障害の小さいアミノ酸の場合は起こりやすいので、この様なアミノ酸残基が隣に位置しているときはラセミ化、異性化が生じやすい環境といえる。本研究で新たに見出した上記のD-β-Asp含有タンパク質のどの残基のAspが反転異性化しているか、周辺の構造はどのようなものなのかを追跡することが重要と考えられた。
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