中枢神経損傷時にグリア細胞の活性化によって形成されるグリア瘢痕は、中枢神経軸索の再生・伸長を妨害する。したがって、中枢神経再生を目指す上でグリア細胞の活性化を制御することが必要不可欠である。本研究は、細胞の分化や増殖の多くは、サイトカインが細胞表面上のレセプターおよびヘパラン硫酸プロテオグリカン糖鎖との3者複合体を形成することによって開始することに着目し、分子設計プロテオグリカン糖鎖によるグリア細胞活性化の制御を目指した。 ラット新生児脳よりグリア細胞を調製し、繊維芽細胞増殖因子2(FGF-2)を種々の化学改変ヘパリンとともに添加し、細胞表面積を測定してグリア細胞活性化を評価した。その結果、6糖からなるヘパリンオリゴ糖が強くFGF-2によるグリア細胞の活性化を抑制した。 続いて、ヘパリン6糖がグリア細胞の活性化を阻害する機構を解明するため、FGFレセプターのチロシンキナーゼ経路とFGF-2の核移行について検討した。FGF-2によるグリア細胞の活性化は、FGFレセプターのチロシンキナーゼ活性を阻害するSU5402によって阻害された。よって、FGF-2によるグリア細胞の活性化はチロシンキナーゼ活性経路を経ることが示された。一方、ヘパリン6糖とともにFGF-2を添加した場合には、FGF-2単独で投与した場合と同程度の核移行が見られた。以上の結果より、FGF-2によるグリア細胞活性化がヘパリン6糖によって阻害される機構は、FGFレセプターのチロシンキナーゼ経路の阻害によるものであり、FGF-2の核移行の阻害によるものでないことが明らかになった。 本研究によって、ヘパリン6糖がFGF-2によるグリア細胞の活性化阻害に有用であり、中枢神経損傷時に生じるグリア瘢痕の形成阻害に応用可能であることを示した。
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