研究概要 |
ZD1839(イレッサ)は,EGFRを分子標的にして開発された夢の「飲む抗癌剤」として異例の早さで認可された。EGFRが高発現している腺癌ではなく,非小細胞肺癌患者の35%に有効な結果が出ていることから,分子標的以外の結合タンパク質の存在が予想される。ZD1839の合成法を規範に,ビオチン化誘導体を設計し合成した。ヒト末梢血のT7ファージライブラリでバイオパニングした結果,新しい(従ってほとんど情報の無い)インターロイキン受容体に一致する配列が,ショウジョウバエのcDNAではEGFR,およびリン酸化キナーゼに保存性の高いドメインとの相同性配列が得られた。2004年1月に発表された論文(J.Biol.Chem.)では,ZD1839はIGF-1受容体とEGFR複合体形成を阻害しないが,複合体のリン酸化を阻害すると報告している。本研究結果で得たZD1839結合アミノ酸配列は,IGF-1Aの相同性が見られたので,表面プラズモン共鳴解析を実施し,相互作用することを証明するとともに計算科学的に構築した分子モデルから,結合状態を予測した。 大腸がんに処方されるカンプトテシンは,トポイソメラーゼ阻害剤とされているが,本研究結果ではWNTシグナリングとの関与が示唆された。2004年3月のNature Geneticsに,WNTシグナリングが,大腸がんの増殖に直接的に関与していることが報告されたので,本結果が指示されたと考えている。 本研究結果はゲノム情報から得られるため,分子生物学的な実験結果に先んじることが多い。しかしながら,徐々にではあるが,本方法の結果を指示する論文が出始めており,ディスプレイクローニングと計算科学による結合タンパク質の戦略的決定による結果が支持されている。
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