本研究の目的は、ドメスティック・バイオレンスすなわち夫(父)の妻(母)に対する暴力が、それを直接・間接に体験した子どもたちの性別役割(ジェンダー)意識・規範の形成に対して、どのような影響を与えるのか、その実態を調査することである。特に、男性による暴力を「男らしさ」の要素として、また女性による男性の暴力の受容を「女らしさ」の要素として肯定する意識が形成されるのか否か、そのような意識の形成と幼少時の暴力体験との間に何らかの関連が見られるのかを探り、将来のより本格的な調査研究のための基礎資料とすることを目指している。 本年度は、宮城県内の大学において、187名の女子学生を被験者として、性差意識(男性と女性の役割などの違いに関する意識)と家庭における暴力経験を調べるアンケート調査を実施し、その結果を統計的に分析した。この分析によって、家庭における夫婦間暴力の存在が、女子学生の性差意識と家庭における暴力体験との間には相関関係がありそうだということを示す初歩的な結果を得た。しかしながら、個人差も大きく、またアンケートの設問自体が漠然としたものであるために、明確な相関関係の存在を立証するにはいたっていない。 また、平成17年12月にワシントンで開かれたアメリカ人類学会において、日本におけるドメスティック・バイオレンス概念の移入と土着化の過程を、被害者支援運動と防止法制定の両面から分析し、ドメスティック・バイオレンス概念の日本的特質を探る研究成果を発表した。
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