本年度は主に中世イタリアにおける宗教改革とそれに関係する宗教的な遺物、ならびにその製作者たちと宗教者の関係に付いての調査と研究を行なった。なかでもトリエステ・ラベンナ・ボローニャなどアドリア海沿岸の小都市に残る巡礼教会伝来の聖遺物の調査を行った。 トリエステは東方教会 ボローニャの聖ステファノ教会群、聖ペトロニオ聖堂のカタコンベと聖遺物室など、5世紀から16世紀にかけて成立した教会とその歴代の司教、外護者による遺物収集とその実態を調査した。特にパドヴァのサン・アントニオ大聖堂(Basilica del Santo)の聖アントニオ関連の巡礼教会で、その聖遺物祭壇は、聖具室とともに主祭壇の背後に別置された巨大なものである。これは聖アントニオの本人の聖遺物箱とともに、彼に所縁の人々の遺物を合わせて祭祀しているもので、中世以降、聖アントニオをめぐる信仰がいかに貴賎の別なく広まり、そして教団の阻止の一人として信仰を集め、いかにそのネットワークを広めたかという本研究のテーマを考える上で重要な資料となった。さらにアドヴァンス期間における巡礼教会の儀式、伝承、聖遺物の展観、カタコンベの祭祀を中心に、フランス国境地域の巡礼教会の調査などを行った。文献による思想史を背景とした教団史ではなく、聖遺物に対する人々の民衆信仰史から見た中世教団史を再構築するきっかけとなったと思う。 国内における聖遺物に関する調査研究としては、快慶作岡山・東寿院阿弥陀如来立像の像内納入品資料を『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代II』(中央公論美術出版)として公刊したほか、青木淳「仏師快慶と天台関係の造像活動」(『日本宗教文化研究』7-2)を発表した
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