本年度は、日本における中世の宗教団体の成立とそれに関わる祖師遺物の研究を中心に行った。特に岡山県牛窓町東寿院阿弥陀如来立像とその納品に関する調査・研究は、その中心的な位置を占めるものであった。 その調査、ならびにそれにより得た新知見は、すでに新聞各紙に紹介されたが、中でも同像の納入品より鎌倉仏教をひらいた祖師のひとり法然に関係した人々の結縁交名が確認されたことである。これは法然の教団がその師の死後、弟子たちが新たな寄り処として天台座主慈円とその周辺に居たことも明らかになった。これについては日文研叢書34『東寿院阿弥陀如来像像内納入品資料』にまとめた。 また同資料には中世の稚児愛に関する文書や和歌切が多く納入されており、こうしたことから、中世における造像の場とそこに参集する人々のサロン的な結衆の存在が浮かび上がるところとなった。 ヨーロッパ関係の調査は本年は実施で行うことはできなかったが、16世紀中葉に編纂されたハレ(ドイツ)の聖遺物カタログの翻刻作業を始めた。 論文としては「仏師快慶とその信仰圏」などを執筆した。
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