研究概要 |
15年度の研究(現地調査を含む)では,ガウディが音・音楽をサグラダファミリア大聖堂においてどのように位置づけているかを明確にしたいと考えた。楽器については,「鐘学的なる建築-ガウディのデザインとリズム」(秋山邦晴)や「ガウディの設計態度」(松倉保夫)など信頼できると思われる国内資料からでも,チューブラベルや双曲線状のパイプ型の鐘などが造られたことを"事実"として認識できよう。特に,1915年から1917年にかけて,ガウディは鐘を製造し,実際に鳴らして音の伝搬実験をしたということである。したがって,主たる楽器が鐘であることは,その形状を別にすれば,明確である。また,誕生の門のファサード内側付近には合唱隊のための窪んだ空間を確認できるので,鐘と合唱による音楽をガウディはまず構想していたと考えられる。 むしろ重要なことは,どうしてサグラダファミリア大聖堂において音楽を不可欠な要素とガウディが捉えていたかである。サグラダファミリアは巨大な石の森であって,ガウディにとっての「自然」を体現しているのではなかろうか。その自然は石によって固定されたものであってはならず,植物のようにメタモルフォーゼするものであろう。そのような無限的な変貌は螺旋状の階段などで表現されているが,音楽によって表現することが最適だと考えられる。変幻自在な音・音楽を基調(生命)とするガウディの自然観を「音響ナチュラリスモ」(acoustic naturalismo)と呼びたい。この自然観を16年度にはさらに掘り下げる予定である。 サグラダファミリア大聖堂は楽器であるともに礼拝の場でもあるので,両者のバランスが取られなければならない。鐘楼内部にある円筒状空間の連続は一種のマフラー(消音器)であり,音響的なバランスを実現するための考案であろうと予想される。そこで,鐘楼下部を簡略化した25分の1の縮尺模型をアクリルで製作し,その頭部に音源を置いて,音の内部伝搬や減衰効果を測定した。身廊の天井位置が不確定ではあるが,モデル実験からマフラー効果を確認できた。
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