今年度は当初の計画通り、文化大革命期の演劇関連の文献資料収集、および革命現代京劇に直接にかかわった当事者へのインタビューを行い、以後の研究推進のための基礎的な情報を蓄積した。 まず文献資料に関しては、『中国京劇史』、『中国戯曲現代戯史』等の基礎的文献によってマクロな状況を整理しつつ、革命現代京劇に関する個別の資料の収集を行った。文革期の演劇関係資料については、残されているものが少ない上にアクセスが容易でない場合が多く、収集には一定の困難が伴うが、早稲田大学現代政治経済研究所には昨年度に出版されたCD-ROM『中国文化大革命文庫』が収められており、ここから当時劇団内で伝達された指示の内容など、かなり具体的な情報が入手できた。これらの資料から、これまで明らかにされなかったミクロなレベルの状況が把握できると考えている。 またインタビューに関しては、北京の複数の関係者から当時の状況を直接に取材する機会を得た。特に北京京劇院の俳優として革命現代京劇『杜鵑山』の創作に関わった石宏図氏からは、文革期の俳優訓練に関して詳細なお話をうかがうことができた。また当時中国京劇院で『紅色娘子軍』創作組に所属していた李興海氏からも、一定の情報提供を受けている。さらに日本国内在住の複数の京劇俳優に、文化大革命期の演劇学校内の状況についてインタビューする機会を得た。彼らは文革中に京劇俳優養成が復活した際、第一期生として演劇学校に入学しており、当時学校内で行われていた様々な身体訓練に関して、彼らの直接の体験に基づく詳細な情報を提供していただいた。 以上の調査活動によって、当時の革命現代京劇の創作、および俳優の身体訓練について具体的なイメージを描くための情報はある程度入手できたと思われる。以後は論文執筆に向けた整理作業を行いつつ、関連情報をさらに収集していきたいと考えている。
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