1、俄芝居の伝承は、継承者不足のため、今日急速に失われつつあり、その実地調査と、映像・録音資料の作成と保存は、緊急を要する課題である。初年度の今年は、高知県室戸市佐喜浜八幡宮の「佐喜浜にわか」、大阪府南河内郡建水分神社の「だんじりにわか」を中心に調査し、俄芝居の現行伝承の映像資料を可能なかぎり作成し、俄芝居の身体技法(発声法を含む)について考察した。また、私は以前、甘木市の「盆にわか」、室戸市の「佐喜浜にわか」について私的に調査した経験がある。その際、収集したビデオ資料もふくめて、収集・作成した映像資料を劣化させないために、それらをDVDに保存するなど、資料整理を行った。 2、俄芝居に関連する芸能として、念仏狂言をはじめとする各地の民間芸能について調査した。京都壬生寺や嵯峨釈迦堂の念仏狂言、京都光福寺の六斎念仏や、盆の前後に行われる各地の風とくに歌舞伎とは異質な演劇伝統として、その映像資料をもとに、身体技法に焦点をあてて考察した。 3、俄芝居の身体技法を摂取することで生まれたのが、近代の新派劇である。歌舞伎の身体技法と、新派劇の身体技法を比較検討することで、明治の口語演劇が成立するうえで、俄芝居の身体技法がどのような役割を果たしたかについて、実際の舞台をみながら、また、文献資料を使いながら、考察した。とくに新派劇については、過去の名優といわれた人たちの舞台映像を収集して検討した。
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