本年度は8月から9月にかけて1ヶ月弱、マダガスカルに滞在し、言語学的調査のほとんどなされていないマダガスカル手話の予備調査をした。本研究は手話諸言語の語レベルでの比較・対照を主眼としているので、統語論は中心領域ではないが、世界の手話諸言語がすべてSOVあるいはSVO語順であると言い切ってしまう欧米の手話研究者がいるなかで、音声マダガスカル語の影響でVOS語順をも持っている可能性の高いマダガスカル手話を調査研究することには大いに意義がある。語彙面でも、マダガスカルの旧宗主国フランスのフランス手話との類似はそれほど多くない。ノルウェー手話との類似が指摘されているがさらなる調査が必要である。採取した語彙は、他手話言語のデータとともに統一表記によってデータベース化の途上にある。 9月末にはスペイン・バルセロナで開催された「手話言語研究における理論的諸問題(Theoretical Issues in Sign Language Research)」学会大会に出席し、世界各国の手話言語研究者と交流した。当大会は、約半数の研究発表が、英語帝国主義的理論言語学に傾いたものであり、言語記述に直接結びつくものではないきらいがあるが、その中にあっても、地道に言語記述を行っている研究者も多く見られ、多くの学問的刺激を受けることができた。 本国にあっては、既に刊行されている手話諸言語の辞書から、語彙を選び、William Stokoeの表記法、Samuel Supallaの表記法、ハンブルク表記法などを手本にした簡易な表記法により、データの集約を進めている。
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