研究概要 |
本研究では、音声言語のように、能記である手指動作を、音声学的レベルにおいて、もしくは音韻論的レベルにおいて統一的に表記する基盤となる、国際音声字母(IPA)に相当するものが、いまだ学界全体によって認められ、使用されていない手話言語に関して、どのような表記法が使用に耐えうるかを考察した。まず、ハンブルク大学ドイツ手話研究所が制定し提唱するハンブルク表記法(Hamburg Notation System, HamNoSys)があるが、これは幾分精密な音声学的表記に偏っていることが感じ取られた。ハンブルク表記法は、手話言語の能記を精密に表記することには適しているが、多量なデータの比較・対照のためには、煩雑すぎるきらいがあることがわかった。一方、アリゾナ大学教育学部の自らろう者である研究者、サミュエル・スパラ博士のASLphabet(graphemesとも)は、最小限の22記号からなり、手話言語の能記を精密に表記し、再現性をも持たせるには、幾分足りず、underspecificationを含意するが、複数の手話言語の比較・対照のためには有用であることがわかった。本研究では、ASLphabetを用い、2次元絵画や、2次元写真による手話辞書がある日本手話、アメリカ手話、韓国手話などから100語をそれぞれ選び、また現地調査によって得たマダガスカル手話の1次的データをそれに加え、デジタル・アーカイブ化し、日本手話と韓国手話に関しては、比較研究を、また全手話言語に関して対照研究を行った。
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