本研究では鹿児島方言のアクセント変化(崩壊)について現地調査を行い、データの分析によりアクセント体系が変化していく過程とその背後にあるメカニズムを考察してみた。その結果、次のようなことが明らかとなった。 外来語の発音が標準語の影響でA型アクセント(下降調)からB型アクセント(非下降調)へ移る傾向があることは、これまで指摘されていた。今回の調査では、同じ様な標準語の影響が、(i)外来語だけなく和語(たとえば「楓」「鯉」)や漢語を含む語(「対戦」や「二枚貝」など)にも起こり、(ii)またA型→B型だけでなくB型→A型→も起こり、さらに(iii)鹿児島市内だけでなく川内市のような周辺地域でも起こっているということがわかった。 語が複合語化した時に高い部分が後ろへずれせいく法則(複合法則)についても、若年層に崩壊の兆しが見える。たとえば「青信号」(B型アクセント)と「赤信号」(A 型アクセント)の間で混同が見られ、前者をA型で発音する傾向が観察された。逆に「社会党」(A型)と「自由党」 (B型)の間ではA型からB型アクセントへの変化が顕著である。これらの変化は、標準語において下降調で発音される語は鹿児島方言でも下降調(A型)で発音され、標準語において非下降調で発音される語は鹿児島方言でも非下降調(B型)で発音されるようになることを示唆している。 今後、インフォーマント数と調査地点をさらに増やして、以上述べてきた変化の一般性を確認する必要がある。
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