鹿児島方言のアクセント変化(崩壊)について現地調査を行い、データの分析によりアクセント体系が変化していく過程とその背後にあるメカニズムを考察した。その結果、次のことを明らかにし、著書にまとめた。 1.基本名詞、複合名詞、複合動詞のいずれのカテゴリーにおいても、A型(下降調)とB型(非下降調)の間に混同が見られ、特に若年層(中学生)においてその傾向が顕著である。 2.A型とB型の混同は、和語、漢語、外来語いずれのタイプの語彙においても観察される。 3.B型からA型への変化は、東京方言において起伏式(下降調)で発音される語彙に顕著に起こり、一方、A型からB型への変化は、東京方言において平板式(非下降調)で発音される語彙に特徴的に起こる。 4.3の結果から、鹿児島方言に観察されるアクセントの変化の背後には東京方言の影響が見られる。 5.にもかかわらず、鹿児島方言の新しいアクセントは東京方言のアクセントと同一ではなく、音節単位にピッチを付与する(音節体系)、2つのアクセント型しか許容しない(二型体系)という鹿児島方言の体系的特徴は保存されている。 このアクセント変化を歴史的な観点から考察するために、甑島手打方言と枕崎方言について現地調査を行った。 アクセント変化に関する研究と並行して、鹿児島方言の特徴とされる「下降調の疑問文イントネーション」について音声データを収集し、音響分析を行った。この結果、次のことが明らかになった。 1.疑問文の文末では顕著なピッチ下降が起こる。 2.ピッチ下降の前に、顕著なピッチ上昇も起こる。 3.ピッチ下降は音節の伸張を伴うが、その直前では逆に音節が短く発音される傾向を示す。
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