本年度は、当初の目標のとおり、(a)地理情報データベースの作成、(b)歴史史料による地震情報の収集を行なった。 (1)地理情報データベースには、必要な範囲のデジタルマップ(DEM)を購入し、GISソフトArcView8により解析するシステムを構築した。本研究で対象とする生駒断層と山崎断層の断裂による地震の影響が及ぶ範囲として、それぞれ畿内・播磨一国程度を想定しており、広域のデジタルマップは、この範囲をカバーするものとした。 (2)天平6年の生駒断層の活動を示すと考えられている誉田山古墳の等高線をベクトルデータとして入力し、内挿により3Dデジタル化した。この作業は、当初デジタイザの利用を想定していたのだが、スキャナで図面そのものを取り込み、その画像をベクトル変換する方法を採用した。 (3)奈良時代に行なわれた写経の願文をすべて収集した。天平6年には聖武天皇の勅願による一切経の書写が開始されているが、その願文によると、通常、写経の発願が父母などの近親者への供養など卑近な理由によるのに対して、衆生の救済を願う一般的なものであり、その特異性が際立っている。 (4)内陸直下型地震の総合的リスク評価のために必要なパラメータの中で、ある対象地域のどこで大地震が発生するのかについての場所の予測と、将来の地震の大きさを予測する規模予測については、最近デジタル化された活断層カタログなどにより精度の高い議論が可能である。これ以外にも、主に経験式に基づく地震の破壊域およびその周辺での地面の揺れ方(地震動)の予測や、地震動により被ると予想される被害の予測の式を組み合わせることで、将来予測だけでなく過去の地震の姿を再現して議論することも可能となった。この成果を、歴史学や建築学の成果・知見とあわせて考えることで、両分野に有益な新しい研究テーマを創出することができると考える。
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