研究概要 |
本研究では,第一段階として,現状での諸問題を把握するために,大阪府下,および兵庫県下の公立小・中学校で学ぶフィリピン人児童・生徒10人を対象に参与観察に基づく継続的な調査を実施し,現時点で,日本語の習得に関する問題,教科学習に関する問題,心理的・文化的間題の3つの問題点を確認した。 まずフィリピン人児童・生徒の日本語習得について,全学年とも日常生活に支障はないが,教科学習に必要な日本語という点では,在日年数が長くとも,学年が増すに連れて深刻度が増し,教科学習のための日本語能力は思ったほど伸びない現状が明らかになった。 こうした現状の背景には,フィリピンと日本での公教育における教育の到達目標,方法の違いに加えて,学校をめぐる文化の違いが存在していると考えられる。たとえば東アジア諸国と違いフィリピンには,乗法の記憶法としての「九九」が存在せず,計算力に教育の力点が置かれることもない。また,我が国の公教育において,一時間の授業の完結性よりも,授業の連続性が重視されていること,昨今の教員が権威主義的ではないことなどの点も,教育をめぐる文化の違いに挙げることができる。 教科学習に関するこれらの問題点は,フィリピン人児童・生徒の進学にとって深刻な問題となっており,個々の事例において私が気づいた点は,その都度,暫定的な学習支援プログラムを作成するなどして,学校側に伝えたが,より大きな問題点としては,多くの児童・生徒の保護者自身が,日本語や日本社会への適応の問題,さらには以上に起因する家庭の問題を抱えており,児童・生徒の心理に甚大な影響を与えている点が指摘できる。来年度は,引き続き学校における調査を継続するとともに,フィリピン人以外のケースや学校以外での多文化環境下の問題とも比較検討し,問題の理解を深めたいと考えている。
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