研究概要 |
本年度は,「多文化環境下での『心の問題』に関する人類学的研究」の最終年度として,大阪府下,および兵庫県下の公立小・中学校で学ぶフィリピン人児童・生徒を対象に,外国人児童生徒をとりまく社会的,文化的,言語的,心理的諸問題に関する報告書を作成した。 大阪と兵庫の公立小中学校で学ぶフィリピン人児童生徒は,苛立ちや不安,不満といった心理的な不安定さのなかで日々の学校生活を送っている。そうした不安定さの原因には,家庭事情の複雑さに加え,彼ら彼女らが思ったほどには日本語の能力が向上しないこと,そのため学習意欲があっても,なかなか教科の学習が進まないことなどを挙げることができる。教科学習の「遅れ」に関しては家庭環境や本人の学習歴,姿勢とともに,母語を使用した教科教育に関する方法論上の問題がある。また外国人児童生徒に対する学習支援をどうするかという当面の課題は,今後の我が国の教育を左右するより深刻な課題に密接に関係している。 今日,日本社会には様々な文化的背景や言語的背景を持つ人々が暮らしている。フィリピン人児童生徒が抱えている問題は,「心の問題」と呼び得るものである。それが心理的な問題であるとともに,認知に関する問題だからである。我が国が彼ら彼女らを教育する枠組みを用意できたとき,それは日本の教育全体にとってもプラスとなるであろう。 なお本研究では,本年度,最終的な報告書の他に,大阪府外国人サポーター1000人育成プロジェクトの学校教育部門でのボランティア育成に携わり,「文化・人口移動・学習サポート」と題する講演を行うとともに,ロールプレイ実習,サポート・マニュアルの作成に関与した。
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