今年度は、理論面の研究として、わが国における相続制度に関する文献や理論の展開と成果をフォローして適用可能な理論を検討した。とくに合理的行動分析に基づいた文献やデータを調査・検討して、これらを参考にして相続や財産の移転面での法的主体の合理的選好と意思決定のあり方を探求した。仮説のための視点として合理的選択行動モデルに基づいて、わが国の相続や家族財産の移転および家族領域での応用の可能性を考察した。 現代の相続や遺産分割に関する調査とデータの収集として、相続と実質的な競争関係にある、生命保険会社、銀行・信託系銀行・高齢者支援協会など非営利法人をはじめとする民間の団体、および年金関係の機関、また、仲介・斡旋する機関である、日本公証人連合会はじめ主要な公証役場および各弁護士会の遺言センター、家庭裁判所などへの調査およびインタビューを行い、また各種実態的データや統計等を収集した。これらを基にして、多様な要因が介在する相続の場面で人々がどのような行動を取っているかの分析を行った。 これらのモデルとデータをベースとして、法学的視点から分析したが、とくに相続問題や広く家族財産の移転という問題においては、伝統的に非合理的行動が対象となると考えられてきた側面があるため、被相続人や相続人あるいは家族など利害関係者の行動様式や意識を考慮する必要があった。このため、調査データと理論面での研究を深める必要がある。また、次年度における課題として、理論的・実証的研究と検討の結果得られる結論と法学的検討結果とを考慮に入れて、研究をさらに精緻化する必要がある。
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