15年度においては、予定通り、台湾・香港・沖縄それぞれの「返還」・「祖国復帰」に関する一次と二次資料の調査と整理を行った。また集めた資料などに基づき、新たな論文「『辺境東アジア』:新たな地域概念の構築」を執筆し、日本国際政治学会誌『国際政治』(第135号、2004年3月)に掲載されました。15年度の研究成果を凝縮したこの論文で得た知見は次の通りである。 (1)本稿は、台湾・香港・沖縄を包括して「辺境東アジア」という概念を正式提起した。この概念の提起と構築の目的には、21世紀の東アジア地域の安定に不可欠の国家システム・地域システムの再構築に積極的なヒントを与えることにある。 (2)「辺境東アジア」の概念提起は、台湾・香港・沖縄の特徴、すなわち三地域が有している三つの共通点に基づいている。 i)この三つの地域は前近代ないし近代において東アジアの国家・地域観念である伝統的中心・辺境を基にした華夷システムの中で、「辺境」と位置付けられてきた。 ii)これらの地域は、近代以来、二度ないし三度にわたりその主権もしくは政治的帰属が変更されたり、異民族の植民地的支配を受けたりした経験をもっている。 iii)このような近現代における主権・帰属の変更が行われて以来、この三つの地域は、共にその主権国・宗主国との関係でアイデンティティをめぐる問題を抱えてきている。 来年度は、「辺境東アジア」という概念を固め、台湾、香港、マカオ、沖縄それぞれの国民統合・アイデンティティ問題を探っていく予定である。
|