期待効用最大化の公理論的基礎は経済エージェントの選好を原始的な概念として、それを二項関係『〜は〜より好ましい』で記述することにより、数学的な定量的表現定理(区間尺度)として厳密に求められることから得られる。これに対して、経済エージェントの満足判断、または許容判断を原始的な概念として、それを『〜は満足である』または『〜は許容できる』という単項関係で記述することにより、満足化原理の公理論的基礎を構築することを考える。このことにより、より現実に近い経済的意思決定のモデル化が可能となると考えられる。このような単行関係による表現は、代替案の集合の部分集合を規定することと同値であるため、何ら自明でない定量的表現が得られるようには見えない。しかし、リスク下や不確実性下における代替案の集合に対しては、比例尺度として捉えられる評価関数が存在し、それらの評価関数についての期待値が非負(または正)であるとき、またそのときに限り満足である(または許容できる)関係が表現できることを導出した。また、これらの比例尺度を用いて、リスク態度などの経済エージェントをモデル化する重要な概念についても、満足化原理の枠組みで捉えられる可能性があることがわかった。 上記の理論的研究以外にも限定合理的意思決定のモデル化を試みている他のアプローチについて広くサーベイを行い、文献、資料等のPDF化をして、データ・ベースの構築も開始した。
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