本年度は、日本の大学における特許化戦略、ひいては日本の大学の研究成果の技術移転の実態について調査を行い論文にまとめた(『研究技術計画』17号1巻参照)。調査では、東京大学、とくに先端科学技術研究センターを対象に、大学教官、TLO関係者、企業の研究開発担当者など合計23名に行ったインタビューを行い、その結果をもとに、東京大学における新しい産学連携の環境への取り組みを考察した。日本の大学は、大学の研究結果の事業化を促進するために大学の研究機能の変更を行う制度環境に直面している。本インタビューの結果から、大学教官は近年の産学連携の高まりに対して、自分たちの役割を拡大しており、とくに自分たちの発明をもとにベンチャー企業を創設するなど、新しい制度環境を巧みに利用していることが指摘できる。加えて、受託研究や有料コンサルティングが以前よりもさらに活発に行われている。しかしながらその一方で、これまで行われていたような企業との情報共有の形態も依然として普及している。大学教官は産学連携をめぐる制度環境の変化のなかで、自分たちの役割についての認識を拡大させており、基礎研究に加えて、商業化を目指した応用研究をも自分たちの役割の一つと見なしている。大学教官はある時には情報の公的な普及を望み、また時によっては技術開発の独占的なチャンネルを望んでおり、これらの新しい役割の形成は、公的/私的独占的な面における大学教官の選択肢の幅を広げているといえる。
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