本年度は研究基盤となる基本モデルの構築に取り組んだ。教育選択へ政府が介入する経済学的根拠は、教育がもつ外部効果によるところが大きい。しかしながら、教育の外部性は初等教育には顕著に認められているものの高等教育に関してはその存在は明らかではない。我々は、高等教育(とりわけ大学教育)に外部効果がないという想定のもと、生産を含む2期間世代重複モデルを構築した。第一期は大学教育を受ける期間であり大学教育を選択しない個人は所与の能力のもとで労働を行う。第二期は労働期間で、前期に教育を受けたか否かに関わらず労働を行う。ただし、第二期の効率労働は第一期の教育の有無によって異なってくる。したがって個人は第一期の労働所得を教育の機会費用、第二期にうけとる所得を便益として大学教育を受けるか否かを決定する。モデルの基本的な特徴を述べると以下のように集約される。(1)個人は将来の賃金収入を考えるとき静学的期待をもつ。(2)資本市場は不完全であるとする。この仮定は現実的であると同時に、モデルにおいてマクロ的な貯蓄=次期資本が負になるのを防ぐ。(3)効用関数を線形と仮定する。これはモデルの簡単化のためである。(4)効用関数のパラメータに異質性を導入する。そしてこのモデルに関して動学分析を行った結果、ある一定の条件のもとでは経済にカオス的な不均衡状態が生じることが認められた。このことは、仮に大学教育に外部効果が存在しないとしても政府による大学教育政策が経済の効率性をより改善する可能性を示唆するものである。
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