本研究課題は、表題から自明のように、工業化論の新しい枠組みの提示を目論むものである。本年は当助成課題の第2年目であり、現地アルヒーフでの資料所在調査作業と平行させて、下で記すように空間概念の彫琢に努めた。 初年度の研究で「先進農業地域型」の工業化モデルの骨子(略)をさしあたって提示したものの、空間分業関係の実証過程において、対象の空間概念について以下の問題に逢着した。1)バイエルン州南部の工業化の基軸を成す空間は、シュワーベン東部からオーバーバイエルン西部に至る、限定された空間であり、政治的空間概念である「バイエルン」と空間規模と境界の両面で合致しない。のみならず、この「ミュンヘンとその周辺」の空間は、既存の如何なる行政区分とも合致せず、また、此地を適確に表す空間概念が学問的に未確立である。2)ニュルンベルクを中心とするバイエルン州北部のフランケン地方は、ミュンヘンに対して対抗的な産業蓄積を成して現在に至っており、「バイエルン」の呼称で性格の異なる2空間を一括して論じるのは適切でない。 現在のバイエルン州南部には、ミュンヘンを中心とする概ね100km圏内の企業や自治体などで構成する、経済振興団体(MAI)が存在する。現代のMAIの会員空間が工業化の史的形成空間とかなり重なるのは、ある意味で当然である。現代のMAIを参考にしつつ、バイエルン州南部の史的工業化空間として、「MAI空間」を措定した。
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