この研究プロジェクトの初年度にあたる2003年度においては、主に2004年度、2005年度の本格的研究へ向けての準備が主に3つの領域において行なわれた。 まず、文献のサーベイにおいては、その対象を可能な限り広く取って、地域的な対象を日本ばかりではなく、広く海外をも含め、アメリカを中心としながら、ヨーロッパおよびアジアの諸経済におけるマイノリティ企業に関する研究をサーベイした。これは、現在までのマイノリティ企業に関する研究が、日本だけでなく、諸外国においても国際比較的な視点を持たないままで継続されてきたことへの反省にもとづくものである。さらに、サーベイの対象は経済学な分析ばかりでなく、社会学的、歴史学的な分析を含めて、さまざまな角度からの研究を網羅した。これは、マイノリティという基本的には非経済的要素の強い対象を分析するについて、多面的なアプローチが有効であるという考えに依拠する。 第2に、日本においてのマイノリティ企業を取り上げる際には決定的に重要である在日韓国・朝鮮人の企業に関して、歴史的にその中心である関西地域を対象として、聞き取り調査等のフィールドワークを実施した。これは、現在までの日本のマイノリティ経済の研究が、労働あるいは企業家に関する社会学的な関心からされたものが多く、このプロジェクトがねらっている産業構造論的な視点が見られなかったことをふまえて、経済主体としての個別企業の観点から、その発展のダイナミックスを明らかにするための情報を体系的に収集する目的から行われた。結果として、これまで注目されてきた兵庫県新長田のケミカル・シューズといった例ばかりでなく、同県尼崎市の土木建築業、さらには京都市の繊維産業、また一般的にパチンコ産業といった重要な例が多数散見されることが分かった。 第3に、マイノリティ企業研究が、これまで最もさかんなアメリカ合衆国への出張を通じて、現地のマイノリティ企業の実態を観察するだけではなく、そのような企業、産業を研究している研究者とのネットワークが形成できたことは大きな成果であった。ともすれば、目本社会固有の要因からのみ説明されることの多いマイノリティ経済の特徴が、異なる社会、政治環境のアメリカにおいても多く見られることが理解できたことは重要な発見といえるだろう。
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