研究概要 |
本研究は、IPO (Initial Public Offerings)前後における企業の会計政策(例えば、保守的な政策を採用するか、反保守的な政策を採用するか、それとも日本企業が通常展開しているような平準化政策を展開するか)とそのような会計政策を採用する理由、及び会計政策と株価との関係について、日本のIPOに関する分析を行うことである。 本年度は、主に文献渉猟とIPO関連主体に対する聞き取り調査を行った。 まず、米国及び日本におけるIPO関連の文献の渉猟を行い、論文も含めた文献目録を作成した。 次いで、IPOの現状を知るために、トーマツ監査法人(東京本社)、ジャフコ(東京本社)、及び野村證券の関係者に対して聞き取り調査を行った。IPOに直接に関わっている公認会計士、ベンチャー・キャピタリスト、証券会社等の認識に基づく限り、米国でみられるような、IPO前後のEarnings Managementが日本ではあまり観察されないことが明らかとなった。今後、この理由を明らかにしていく必要がある。また、近年の日本では、IPOが多くのケースで創業者利得を生み出してはいないことも分かった。むしろ、IPOの目的が、幅広く資金を調達して製品生産ベースでの拡張を図っていくという本来の戦略に基づいたものとなっていると理解することもできよう。 さらに、IPOを達成したベンチャー企業の経営者に聞き取り調査(福岡と京都で)をした。限られた調査対象であったが、IPOに向けて米国に見られるような反保守的な会計政策を展開してはいないことが分かった。今後さらなる調査によって事実を積み上げていきたい。なお、彼らがIPOを行った動機として、資金調達のみでなく,企業のステイタスを高めたいとの希望があることも分かった。そのような動機がIPOの財務的合理性とどのような関係にあるのかも検討する必要がある。
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