今年度は、昨年度と今年度にかけて行った調査をもとにした研究成果を発表することに努めた。 第一に、昨年度の北陸・中国地方の浄土真宗地帯の共同墓調査と今年度のスウェーデンの万聖節の共同墓調査に基づいた(11.研究発表にかかげてある)論文で次のことを明らかにした。 すなわち、公共的な高齢者ケアの最終的根拠である人格崇拝は、すべての生者に聖性を認めることだが、それは、すべての死者に聖性を感じていくことが基盤となるであろう。そして、すべての死者に聖性を感じていくために必要なことは、浄土真宗の一部の教義にあるような死去した縁者の礼拝の否定ではなく、むしろ縁者の個別主義的な「私的追憶」を深めていくことであり、それにより縁を普遍主義的に拡大していくことである。 「私的追憶」とは、生きている<私>にとってかけがえのない縁者であった死者を追憶することで、その死者との関係を<私>が保ち続けようとするものである。すべての生者に聖性を認めていく普遍主義的な人格崇拝は、「死者の『私的追憶』は生きる<私>になくてはならぬもので、すべての死者にはその死者の『私的追憶』なしでは生きられない生者がいるのだ」という個別主義的な「私的追憶」への深い共感を、われわれがお互いの間で惜しみなく与えあうことよってこそ成り立ちうるだろう。祖先崇拝から「私的追憶」へ向かう傾向がある日本では特にそうである。 第二に、2005年3月に東京で行われた国際宗教学宗教史会議世界大会のセッション「臨床宗教学の可能性-冥福と幸福は両立するか?」において、上記の論文の成果をもとに「冥福観と福祉国家-スウェーデンと日本の共同墓の比較」という題で発表を行った。 東海地方のフィールド調査は継続中であり、来年度に成果をまとめる予定である。
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