本研究の目的は、特定状況において選択される対人コミュニケーション方略を、比較文化的な視点によって検討することである。本年度は、昨年度の研究に引き続き、Brown&Levinsonのpoliteness理論にもとづいて、対人コミュニケーション方略の比較文化的検討を行った。本年度実施した研究2では、1)相互作用相手との親密性(親友、他人)、2)相互作用相手の地位格差(先輩、同輩)、3)相互作用状況(依頼、批判、助言、断り、主張、謝罪)および4)文化(日本、米国)を独立変数とし、6つの直接的・間接的方略(率直、丁寧、婉曲、第3者、煽て、回避)の使用を従属変数とした。要因計画は2x2x2x6であり、文化以外の全ての変数は被験者内要因とした。結果は、1)米国人のほうが日本人よりも全般的に率直および丁寧の両直接方略を選好した、2)日本人のほうが米国人よりも全般的に婉曲、第3者、煽ておよび回避の各間接的方略および率直方略の使い分けを行った、5)日本人のほうが状況による両直接方略および回避方略の使い分けを見せたことが明らかになった。さらに、研究3は同じ研究計画と方法で、方略の使用に代わって、方略の適切性および効果性の認知を従属変数とした。その結果、1)アメリカ人のほうが全般的に丁寧方略が日本人よりも適切および効果的であると認知した、2)日本人のほうが全般的に各間接方略を米国人よりも適切および効果的であると認知した、3)適切性に関しては、米国人のほうが日本人よりも親密性による区別を行っている、4)適切性およびに関しては、日本人のほうが米国人よりも親密性による区別を行っている、5)日本人のほうが米国人よりも、丁寧方略の適切性および効果性について状況による区別を行っていることが判明した。研究4では、研究1と同様の研究デザインを用い、依頼と断りの状況における直接・間接方略の選好の日本国内の地域比較を行った。主な結果は、関西地方が最も率直方略を好むことであった。最後に、研究5では、基本的に研究2と同じ方法を用いたが、親密性を親友、仲間、世間、他人の4水準にし、地位格差の変数を外した。その結果、率直方略は親友に対して有意に高く好まれる一方、丁寧および各間接方略に関しては、仲間と世間に好まれ、親密性の両極の相手にはそれほど好まれなかった。これらの5つの研究で明らかにされたことは、「日本人は間接的な、アメリカ人は直接的なコミュニケーションを好む」という先入観が妥当ではないことと、親密性、地位格差および相互作用のモティベーションによってこうした選好が異なることである。今回の研究では、台湾およびオーストラリアのデータが入手できず、副題通りの比較が実現できなかったが、今後これらの文化におけるデータ収集も試みる。
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