本年度は主として研究課題に関する文献による研究のレヴューと国内・国外の脳科学研究者への訪問調査を行った。ただし、国外については、成果を示せるには3月の2週間の海外調査で、フンボルト大学、ハーバード大学、フロリダ大学等への訪問調査の結果をまたなければならない。 まず、これまでの文献調査によれば、子どもの発達段階については、脳科学的に「ある程度」明確な段階区分があることが分かった。しかし、時間軸で縦に年令を追った研究は極めて少なく、欧文ではアメリカのJ.ギード、日本では津本忠治教授や澤口俊之教授の著作によって少しずつ成果が蓄積されている。共通しているのは8〜10歳が大きな変わり目であるということで、それ以前は頭頂葉や後頭葉、側頭葉の発達が著しいが、それ以後は前頭葉、とくにその前頭前野の機能的発達が著しいという。それに応じて、教育的な働きかけも、質的に異なったものにする必要のあることと、前頭前野の働きを促す必要のあることとが示唆された。 もう一つ、カリキュラムの構造として「教科」の形に分化したものと「総合的知識」や「経験」の形に統合したものと、どちらが脳科学的に望ましいのかについては、多重知能理論(MI)を展開するH.ガードナーとそれに賛同するハーバード大学の研究者や実践家の考えを、3月のインタヴューで明確にする。脳科学的にみて「総合的学習」を展開しているからである。 国内の脳科学者へのインタヴューは、東北大学未来科学技術共同研究センターの川島隆太教授、北海道大学医学部の澤口俊之教授、そして大阪大学医学部の津本忠治教授の三人に対して行い、重要な示唆を得た。三人共通して、脳科学研究によって人間を自由に操作できるものにしようなどという俗論は明確な誤りであり、今後の研究のテーマは「個人差」に向くだろうという。次年度はこのような基礎知識をもとに、安彦の「興味の中心の移行理論」(SICT)を核にして少しでも明確な構造上の枠組みを練り上げることとしたい。
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