マイヤーらは、1955年から1970年の期間に、先進国、開発途上国を含めて一様に急激な就学率の成長が生じた現象を、「教育=善」という価値が世界的に共有された帰結であると解釈し、彼らの教育システム拡大に関する「制度的説明」を一つのパラダイムまで昇華させた。しかし、1980年代にはいると、多くの開発途上国では、就学率の停滞あるいは後退が顕著になってきた。教育の価値は世界的に共有されているにもかかわらず、このような停滞現象が生じた背景には、多くの途上国にお債務超過とそれへの処方箋としてIMFなどの支援機閑から示された構造調整プログラムによって、教育を含む公共部門への公的支出が大幅に削減され、その結果、開発途上国の教育機会が現象し、また教育の資が低下したためである。 そこで、1990年にタイのジョムチェンで開催された「万人のための国際会議」では、改めて教育、とりわけ基礎教育の価値を再確認し、国際社会が一丸となって2000年までに基礎教育を普遍化するという目標を設定し、そのために莫大な資源が投入されることとなった。しかし、目標達成にはほど遠いものがあった。この現状を踏まえて2000年にダカールで開かれた国際会議において、教育の重要な価値の再確認がなされるとともに、2015年までに世界中の全ての子供が良質の基礎教育を修了できるよう、国際社会が協力する枠組みが確認された。 しかし、最新のデータによれば、2015年までに目標を達成できる国は対象の155カ国のうち、69カ国に過ぎないと推定される。マイヤーが指摘する教育の持つ価値に、全世界はコミットしているにもかかわらず目標達成を阻害する要因は何なのか?いくつかの研究が示唆するところによれば、開発途上国における教育への予算配分の少なさ、教育予算の非効率的執行などが指摘されている。今後は、今年度収集した各種データをもとにして、再び経済的要因が果たして教育拡大に影響を及ぼしているかどうかを、実証的に分析する課題を追求する。
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