研究初年度にあたる本年度は、まず研究に必要ないくつかの機材を用意し、それを活用し、調査を行うことを中心に研究を進めると言う当初の計画に従って以下のように研究を行い、成果を挙げた。 1 ベネチア(参加型アートの一角を設けたビエンナーレ展)、イスタンブール(街中に展開するアートを含むビエンナーレ展)、仙台「観光とアート」、新潟県妻有トリエンナーレ展、山口県山口市YCAMおよび秋吉台国際芸術家村、都内向島、など各地で展開している各種の「参加」型アートの現場を取材し、企画者・参加者にヒヤリングを行うと共に資料収集に努めるとともにスライドフィルムおよびデジタル画像で記録した。この研究が始まる直前の2003年1月にブリティッシュカウンシル/国際交流基金共催で開催された日英シンポジウム「市民社会とアートの共生」で長田は日本側基調講演を行ったが、これを機に得られたイギリスとの新たな接点にしたがって、資料・情報収集を継続し、また別の機会にコンタクトが取れたドイツ・ハンブルクの社会文化運動体の資料収集も進んだ。 2 この調査に平行して、千葉大学院生・学生および千葉市美術館をはじめとする市内各種組織・個人と共同で、参加型アートの現場のひとつとしてアートプロジェクトを準備・実施し、本研究担当者長田は、この企画の中心を担い、実践的活動の仲から参加型アートの意義・可能性を探った。このプロジェクトには、多数の学生、市民、農民、障害者、児童・生とその他の多様な人々がアーティスト(辰野登恵子・間島領一・小沢剛等)と共に芸術の生成に自ら参加した。 3 研究成果の一部は、別記のような執筆を行ったほか、各種のシンポジウム等で示した。そのうち特に二つをここに挙げておく。(1)福岡アジア美術館主催国際シンポジウム「広まり行くアジアの美術教育」に報告者・パネリストとして参加し、中国・フィリピン・シンガポールのパネリストと研究討議・情報交換を行った。2年目の研究では、このときの情報にしたがって、アジアの参加型アートの調査を展開することが可能となった。(2)さらに、文化庁平成15年度「文化芸術による創造のまち」事業の一環として栃木県馬頭町で開催されたシンポジウム「里山から発信する"もうひとつのアート"の可能性」に、報告・パネリストとして参加し、越後妻有のプロジェクトや、福岡・オランダのプロジェクト等との比較検討を行った。 4 以上のような調査・研究に基づく理論化の作業は、シンポジウム等での報告に際し少しずつ進めてきたが、特に総括的に理論化する作業は、次年度の調査をも踏まえ、次年度・最終年度の課題とされる予定である。
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