本研究は、聴覚障害児(特に聾学校)教育において、近年の手話の使用の広がりを背景として改めて課題となっている読み書きの習得に向けた取り組みを行う際に、彼らの書記言語習得の状況に関する評価項目の作成のための基礎的な資料を得ることを目的として実施するものである。 本年度は、従来より「わたりの指導」として指摘されている、幼稚部段階までの生活言語(話しことば)から、小学部入学後の教科書を中心とした学習において必要とされる学習言語(書きことば)への移行の困難さに着目し、現行の小学校国語科教科書に使用されている語彙について整理を行い、学習言語として必要となる書記言語の資料を得ることとした。小学校国語科教科書(6社)の1年から3年までを取り上げ、用いられている語彙について整理を行った。 その際、これまで聴覚障害児の書記言語習得において困難を示すことが多いと指摘されてきた内容をふまえ、独立語だけでなく付属語である助詞、助動詞のいくつかのものも取り上げた。また、各単元素材で使用されている語彙だけでなく、単元以外の箇所で使用されている語彙についても対象とした。さらに、例えば名詞についても単に名詞として分類するだけでなく、固有名詞、代名詞、一般名詞といった学習上必要となると考えられる分類基準を設けたり、助詞や助動詞についても、厳密な文法的基準に基づいた整理というよりも、聴覚障害児の学習の過程で困難となると考えられるものという視点での分類を行った。上記のような基準に従って教科書に使用されている語彙について整理し、暫定版として延べ数で約15万語の語彙の整理を行った。
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