研究概要 |
本年度はカラビ・ヤウ多様体コホモロジー群の構造の解析を中心に研究を行なった.Xを標数p>0の代数的閉体k上のn次元非特異完備代数多様体とする.Xの標準束が自明的でH^i(X,O_X)=0(i=1,...,n-1)となるとき,Xはカラビ・ヤウ多様体と呼ばれる.Xをn次元カラビ・ヤウ多様体(n【less than or equal】2),Pic(X)をXのピカール群,H^I_<DR>(X)をXの第iドラムコホモロジー群とする.このとき,自然な写像Pic(X)/pPic(X)→H^2_<DR>(X)は単射であることが示せる.さらに,n【greater than or equal】3でH^0(X,Ω^i_X)=0(i=、1,2)であれば,自然な写像NS(X)/pNS(X)【cross product】<_F_p>k→H^2_<DR>(X)も単射であることが証明できた.とくに,同じ条件の下に,ピカール数ρ【less than or equal】dim_kH^1(Ω^1_X)が示せる.2次元のK3曲面の場合には,一般にNS(X)/pNS(X)【cross product】<_F_p>k→H^2_<DR>(X)が単射にならないことからFクリスタルの理論につながる現象が生じるが,このように3次元以上では状況がまったく異なることがわかる.n次元カラビ・ヤウ多様体X上のイリュージー層をB_iΩ^j_X,Z_iΩ^j_Xとする.コホモロジー群H^<n-1>(X,B_iΩ^1_X),H^1(X,Z_iΩ^<n-1>_X)の,それぞれH^<n-1>(X,Ω^1_X),H^1(X,Ω^<n-1>_X)への自然な像をImH^<n-1>(X,B_iΩ^1_X),ImH^1(X,Z_iΩ^<n-1>_X)と書く.H^<n-1>(X,Ω^1_X)とH^1(X,Ω^<n-1>_X)には自然なペアリングが定義できるが,このペアリングに関する基本的な性質として,Xのアルチン・メーザー形式群のハイトをhとするとき,i【less than or equal】h-1ならばImH^<n-1>(X,B_iΩ^1_X)^⊥=ImH^1(X,Z_iΩ^<n-1>_X)が成立することが証明できた.以上の結果はVan der Geerとの共同研究としてDocumenta Math.に発表した.また,これらの結果は正標数におけるカラビ・ヤウ多様体のモジュライ空間の局所構造解明に役立つことが期待され,引き続きこの部分を研究を行なっている.
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